蛋白質中の電子トンネル移動経路解析

光合成や内呼吸などの生体エネルギー変換では、蛋白質中の電子移動反応が重要な役割を果たします。 酸化還元反応中心として働くのは、蛋白質中に存在するクロロフィル、キノン、ヘム、 鉄硫黄クラスターなどの補因子です。 その際、蛋白質は絶縁体となっており、電子が5Å以上空間的に離れた捕因子間を トンネル効果によって移動することになります。 進化の過程で蛋白質環境が特有の電子トンネル移動経路を獲得し、 生体電子移動反応を促進させているかについては、 未解決の問題となっています。 我々は、蛋白質の量子化学計算から、第一原理的にこの問題に取り組んでいます。

蛋白質は巨大分子であるため、その電子状態を求めるには計算コストが問題となります。 そこで我々は、巨大分子を小さなフラグメントに分割し、 フラグメントの電子状態から元の蛋白質全体の電子状態を近似する フラグメント分子軌道(FMO)法 を利用した電子トンネル移動経路解析法を開発しました。 我々の手法では、計算コストの問題を回避するために求めたフラグメント電子状態から、 その空間局在性を利用することで、トンネル電子が蛋白質のどのフラグメント部分を使って 移動しているかを簡単に解析する事ができます。

現在では、密度汎関数理論(DFT)法、モデルコア・ポテンシャル(MCP)法、 可分極連続体モデル(PCM)法を組み合わせたFMO法を用いることで、 電子トンネル移動解析に電子相関、金属、溶媒効果なども考慮できるようになっています。

鬼頭 宏任         (きとう ひろたか)
鬼頭 宏任 (きとう ひろたか)
エネルギー物質学科 准教授

計算機シミュレーションから、太陽電池や光合成の光電エネルギー変換機構を量子力学的に理解することを研究の主要テーマにしています。